EU AI ActのAIリテラシー義務、一律の資格試験は不要。企業が実際に整えるべきもの
欧州委員会が2026年7月27日に更新したAI Act Article 4の公式Q&Aでは、AIシステムの提供者・利用組織には、AIを扱うスタッフ等のAIリテラシー向上を支援する措置が求められる一方、個人に特定の知識レベルを保証させること、一律の試験、特定形式の研修、資格証明書は義務付けられていません。監督・執行ルールは、同Q&Aによれば2026年8月3日から適用されています。企業が考えるべきなのは「全社員に同じAI講座を受けさせること」ではなく、どのAIを、誰が、何の仕事で使い、どんなリスクを理解する必要があるかを整理し、それに合った研修・ガイド・支援策を用意することです。なお、高リスクAIシステムを扱う場合には、人間による監督を担うスタッフへの適切な訓練に関する別の義務も残ります。
- 社内でChatGPTなど生成AIを利用している企業担当者
- AI利用ルールや研修を設計する人
- EU向け事業でAI Act対応を確認する人
Article 4対応を検討する場合は、最初に社内で利用しているAIシステムと担当者を一覧化し、それぞれの用途とリスクを確認します。その上で必要な研修、ガイド、Q&A、相談窓口などを組み合わせ、実施した施策を社内記録として残します。資格取得そのものを目的にしないことが重要です。具体的な適用判断は、自社の事業・利用形態に応じて専門家へ確認してください。
身近な事例を知る
「EU AI Act対応には全社員がAI資格を取得する必要があります」と研修サービスを勧められた
社内では営業担当が文章作成に生成AIを使い、開発担当はコード生成、管理部門は要約に使っています。担当者は全員へ同じオンライン講座と修了試験を受けさせる案を検討しました。しかし欧州委員会の公式Q&Aを見ると、Article 4は特定の資格、試験、研修形式を指定していません。むしろ従業員の知識・経験、利用するAI、用途、リスクに応じてAIリテラシー施策を設計する考え方が示されています。
あなたならどうする?
まず一つ以上選んでから確認してみてください。
推奨される行動- 利用中のAIと業務を整理し、役割とリスクに応じた研修・ガイドを用意する
選んだカードの表示を見ながら、今回はどの行動が安心につながるか確認できます。
欧州委員会Q&Aは、Article 4について一律の研修形式や資格を求めていません。組織は、AIシステムの種類とリスク、利用目的、スタッフの技術知識・経験・教育・訓練を考慮して施策を設計します。Q&Aは、ChatGPTを広告文作成や翻訳に使う企業についても、ハルシネーションなど固有のリスクをスタッフへ知らせる必要があると説明しています。
確認ポイント
「資格取得」が法律上の必須条件だと思っていないか
欧州委員会Q&Aは、Article 4への対応に特定の証明書は必要ないと明記しています。組織内で研修やガイド施策の記録を残す方法が示されています。
全員へ同じ内容を教えようとしていないか
Article 4では、スタッフの技術知識、経験、教育、訓練、AIを利用する文脈を考慮するよう求めています。開発者、一般利用者、管理者で内容を変えることができます。
社内でどのAIが実際に使われているか把握しているか
欧州委員会はAIリテラシー施策を考える最初の項目として、組織でどのAIを利用しているか、その役割が提供者なのか利用者なのかを整理することを挙げています。
利用マニュアルを配っただけで完了していないか
公式Q&Aは、多くの場合、AIシステムの利用説明書を読ませるだけでは不十分になり得るとしています。実際の利用目的とリスクに合わせたガイダンスが必要です。
高リスクAIの追加義務を見落としていないか
Article 4では特定の個人レベルは要求されませんが、高リスクAIシステムの利用者には、人間による監督を担当するスタッフが適切な能力や訓練を持つための別の要件があります。
そもそも自社がEU AI Actの適用範囲か確認したか
EU域外の事業者でもAIシステムをEU市場へ提供する、EU内で利用する、またはEU内の人々へ影響を与える場合はAI Actの対象になり得ます。日本国内だけの利用について自動的に同じ法的義務が生じるという意味ではありません。
現時点での見立て
2026年7月の改正後もAI Act Article 4のAIリテラシーに関する義務は残っていますが、欧州委員会は特定の「十分なレベル」を個人に要求せず、知識測定、資格証明、特定形式の研修も義務付けていません。組織が実際のAI利用に合わせて適切な措置を取ることが中心です。欧州委員会自身も、一般職、管理職、開発者で異なる学習パッケージを用意するなど、役割別のアプローチを採用しています。
安全な対処方法
安心につながる行動
- 社内で利用しているAIを用途付きで一覧化するどの担当者へ、何を教える必要があるか判断する起点になります。
- 業務ごとに「知っておくべきリスク」を数個に絞る広告文章ならハルシネーションや著作権、機密情報、開発なら生成コードの検証など、実務と結び付けた教育にできます。
- 一般利用者・管理者・開発者など役割別に内容を変える欧州委員会自身も複数の対象グループ向けに異なるAI学習パッケージを運用しています。
- 研修だけでなくガイド、相談窓口、社内Q&Aも組み合わせるArticle 4は特定形式の研修を指定しておらず、継続的にAIを安全利用する仕組みを設計できます。
- 実施した施策を簡単に記録する欧州委員会Q&Aは証明書を要求していませんが、研修やガイダンスなどの社内記録を残す方法を示しています。
避けたい行動
- 「EU AI Act対応資格」を取れば自動的にArticle 4へ適合すると考える欧州委員会は特定の証明書を要求しておらず、外部の事例や研修をそのまま導入しても自動的に適合が推定されるわけではありません。
- 年1回の全社員研修だけで運用を固定するAIツールや利用方法は変化するため、実際の利用状況に合わせて内容を見直す必要があります。
- 技術者はAIに詳しいので教育不要と決める欧州委員会Q&Aは、技術経験がある人でも利用するAI固有のリスク、法的・倫理的事項など追加で知るべき内容がないか確認するよう示しています。
- 日本企業なら必ず対象外だと決めるEU域外企業でもEU市場やEU内の利用・影響との関係によって適用される可能性があります。具体的な法的適用判断は自社の事業範囲を確認する必要があります。
AIの前向きな活用
「コンプライアンス研修」を、実際にAIを使いやすくする社内オンボーディングへ変える
Article 4の考え方は、AI利用を制限するルール作りだけでなく、社員が迷わずAIを使える環境作りにも使えます。「使ってよいAI」「入力してよい情報」「出力を確認するポイント」「困った時の相談先」を業務別に整理すれば、禁止事項だけを並べた規程より実用的です。欧州委員会のLiving Repositoryにも、40件を超えるAIリテラシー施策の例が掲載されています。
- 生成AIを初めて使う社員向けに30分の基本ガイドを用意する
- 管理職にはAI出力を使った意思決定時の確認ポイントを追加する
- 開発者には生成コードのレビュー・セキュリティ確認を扱う
- 社内AI利用ルールと実際の成功・失敗事例を更新型FAQにする
- 部署ごとにAI相談役やコミュニティを置き、質問を共有する
今回、覚えておきたいこと
AIリテラシーは「全員が同じ試験に合格すること」ではなく、「その仕事で使うAIを安全に扱えるようにすること」。
情報源
- AI Literacy - Questions & Answers(外部リンク) European Commission, Directorate-General for Communications Networks, Content and Technology 公式発表
- AI talent, skills and literacy(外部リンク) European Commission, Directorate-General for Communications Networks, Content and Technology 公式発表
- Living repository to foster learning and exchange on AI literacy(外部リンク) European Commission, Directorate-General for Communications Networks, Content and Technology 公式発表
誠主任からひとこと